移住相談が増傾向

2021/03/24

新型コロナによる働き方の変容を受け、藤野地域への移住を検討する人が増えている。基本は在宅ワークで、週何度か都心のオフィスまで出社する場合、藤野駅から新宿駅までは最短1時間程度。同地域の移住相談を受ける藤野観光協会(山崎睦文代表理事)は、「都心までのちょうどいい距離感と自然の多さを兼ね備えている点が移住検討者に響くのでは」と話している。

2020年度に同会が受けた藤野への移住相談件数は、1月28日時点で117件。昨年度の年間件数よりすでに5件上回っており、「あと2カ月で更に伸びるだろう」(同協会)と話している。もともと旧藤野町は、戦時中多くの画家たちが疎開してきたことを背景に、1986年に「藤野ふるさと芸術村構想」を策定。自然豊かな環境で創作活動に取り組みたい芸術家たちが集う「芸術のまち藤野」として知られている。加えて、芸術を主に独自の教育方針を展開する「シュタイナー学園」が2004年に開校して以降、その傾向はさらに強まり、市外からの移住者が一定数いたという。

今年度移住相談が増えている理由について同協会では、「新しい生活様式を受け、都心へのアクセスの良さや自然の豊かさ、教育的な面から藤野を選ぶ人が増えているのでは」と分析する。藤野駅から新宿駅へは電車で最短1時間ほど。在宅ワークをメインに都心への通勤も十分可能で、更に平日は都心で、週末だけ藤野で過ごす「2地域居住」スタイルの人もいるという。

同協会は移住検討者への相談事業、空き家の紹介、実際に街中をめぐる「移住体験ツアー」など定住促進に力を入れている。今年度の移住相談者のうち、単身者やファミリーなど約40人が藤野に居を移した。「当協会を通さない人も大勢いるので、実際の数はもっと多いのでは」と同協会は予想する。

また、行政の後押しも注目される。市は、今年7月から藤野駅の近くの藤野総合事務所の会議室棟を「テレワークセンター(仮称)」として整備し、実証運営を開始する。利用料金を払えば通信環境の整ったフロアでテレワークができるというもので、藤野で休暇を過ごしながら仕事をする「ワーケーション」の場としても活用してもらいたい意向だ。緑区政策課の担当者は、「ライバルとなる他の中山間地域との差別化になれば」と話している。

リモワがきっかけ

昨年12月、都内世田谷区から藤野へ家族と移住してきた高橋正さんは、都内洋菓子メーカーのマーケティング業に就く。昨年の緊急事態宣言の最中から、リモートワークが推奨されるようになったことがきっかけで都内近郊への引っ越しを考え始めた。「仕事は昨年から自宅で問題なくできるようになった。元々田舎暮らしが夢だったし、都内より広い家が手に入りやすい。3歳の娘の教育的にもいいし、タイミング的にもよかった」と話す。週に数回は都内のオフィスまで出社するが、「電車で片道1時間40分ほど。決して短くはないが、座れるのでプライベートの時間として有効活用している」と満足げだ。

同協会によると、現在紹介できる空き家がなくなり、10組以上が待っている状態だという。